半径3メートルの経営学

半径3メートル内の”身近な経営学”をやわらかく書いていきます。

宇多田ヒカルのレジリエンス

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2016年9月22日放送のNHK総合「SONGS」の宇多田ヒカルさんを観ました。「あぁ、レジリエンスすんごいなぁ」と感動しました。

レジリエンス」とは心理学用語で「精神回復力」という意味の言葉。

NHK総合「クローズアップ現代+」によれば、この概念が注目されたはじまりは、ホロコースト孤児に心的障害をひきづる人と、ひきづらずに新たな道を踏み出す人の比較研究にあるのだそうです。

このレジリエンス経営学でも注目されています。なぜかというと、人的資源の最大活用において大事だからです。

たとえば、人間関係でまいってしまった社員を、別の部署に移したら、すぐ立ち直って働く人と、なかなか立ち直れない人っていますよね。

本人としても立ち直れた方が楽ですし、会社としても生産性的に助かります。

これって、会社(経営)からみて、社員のレジリエンス(精神回復力)の高さは大事ということ。

あるいは、自分ゴトとして考えてみたとき、先に進みたいのに、いつまでも過去の出来事をぐるぐると思い返しちゃって苦しんだりすることがありませんか?

これって、自分の人生からみて、自分のレジリエンス(精神回復力)の高さは大事ということ。

話を宇多田ヒカルさんに戻すと、彼女に訪れた試練というのは、ハンパなかったわけです。

15歳でデビューして十数年後に「自身が空っぽ」になったと活動休止、有名な「人間活動」期間中に母藤圭子氏の突然の死…。

こうした逆境から彼女が回復してきたことがわかるインタビューには、レジリエンスを学ぶうえで、大事な要素がちりばめられているなと思いました。

レジリエンスでは、自尊心、自己効力感、楽観性、感情コントロールの4要素が、逆境に置かれた際に乗り越える力の源になる要素と言われています。加えて、これらを支える人間関係(ソーシャルサポート)も重要。つまりこの5要素がレジリエンスを測るうえで大事な要素、というわけです。

ここから先は、番組の中で語られた彼女の言葉を引用しながら、彼女が持つレジリエンスの5要素について書いてみようと思います。

ただし、彼女の言葉については、一度観ただけなので、超うろ覚えです。どうぞあしからず。

要素1:『自尊心』

自尊心とは、自分を大切にしたり、自分に自信を持ったりする態度や程度のこと。アメリカ生まれの日本人である彼女は「日本人的な考え方に馴染めない、かといって外国では日本人と名乗る(せざるを得ない)」ことによって、いつもアウトサイダー(外部の人)でした。

彼女の中にある、日本人とそれ以外の、どちらにも馴染めない感覚や経験は、結果として彼女自信の自尊心を高め、独自の音楽観へと昇華されていったのではないかと感じました。

要素2:『自己効力感』

自己効力感とは、自分はそれができる、ここまでできる、という期待や自信を持つこと。15歳でデビューし、その後もヒット曲を出し続けた彼女は、それまでのお膳立てされた環境で暮らす生活から一転、「自分の力で生きたい」と音楽活動を休止し、海外での「人間活動」に入ります。

「水道代払うのが面倒」だったり、「ごはん何にしようかな」といった日常。そんななかで自分の経歴を知らない「若い友人」たちとの交流を通して、文字どおり”自分の力で生きていく力”を養っていきました。

自己効力感を高める方法として最も効果があるのは、小さな成功体験を積み重ねることだと言われます。彼女がいう「人間生活」は、自己効力感を高めるプロセスそのものといえるでしょう。

要素3:『楽観性』

番組では井上陽水さんが登場して彼女の作品をほめてらっしゃいました。
「traveling」の歌詞の歌いだしの「仕事にも精が出る 金曜の午後」が面白いというコメントに対し「ユーモアは大事ですね、どうにもならない状況でも、ユーモアにすることでなんか楽になる」というような発言をしています。
 ユーモアは、笑いとともに人の心やその場の雰囲気を和ませます。深刻な状況をユーモアで切り抜ける。多くの人にありがちな日常の1シーンを切り取って、ちょっと達観しておもしろ可笑しさをもって表現する。そんな彼女の思考からは、楽観性の高さが感じられます。

要素4:『感情コントロール

感情コントロールとは、文字通り、感情をコントロールすることです。これは感情を抑圧することではありません。

「ある時期、さまざまな現象に母が見えていたんですね」

戦慄が走る発言ですが、彼女はこの状況を、

「でも、自分の原点は母なのだから、それは当たり前なんだと気付いた」

と受け入れていきます。ゆらいでいる感情を自覚し捉える、この『感情コントロール』力の高さもレジリエンスにおける大事な要素です。

要素5:『人間関係』

人間関係(ソーシャルサポート)とは人間関係によりもたらされる支援のことです。

宇多田さんは夫婦、親子という人間関係を新たに構築しました。

特に親子の関係は「子供を産んでいなかったらまだ(アルバムを)制作してないと思う」と言わしめる程大きく、

「人間は一番人格形成で大事な幼少期に自身の記憶がない、それを作ったのは育ててくれた母だったんだと、子育てしてわかった」、「(母は亡くなったけれど)、一緒にいるんだという存在を感じた」と言うような発言をしています。この発言からは、亡くなった人との関係性を意味付けたことが伺えます。

母の死から3年、出産から1年を経ずに楽曲の生産活動をし始めた彼女ですが、一連の発言にはレジリエンスを測る5要素に通じるものが多く、試練に正面から向き合っていて、無理が無い、副作用の少ない前への進み方を歩んでいるような印象がありました。

また、蛇足ではありますが、「アウトサイダーだからこそ、疎外感を感じた人に届く曲がつくれる」といった発言は、音楽制作行為が他者の役に立つという役割の認識、平たく言うとシゴト化できたようなすっきりとした表現でした。

彼女の作風が変わったことについては、
「これまでよりも”肉体的になった”と言われたことがうれしかった」
という発言もありました。変化を楽しんでいるご様子、あぁじっくり聴いてみたいですね。

書いてみたら長くなっちゃいましたが、

以上、宇多田ヒカルさんのレジリエンスに感動しちゃった、という話でした。

久しぶりに音楽にお金を使う予感がしています。

 

こんな感じで、半径3m以内起点の経営学なんやかんやをやわらかく書いて参ります。